「 帰 郷 」
岡田泰治
30数年の空白期間がありましたので、アッチコッチさまようのは新鮮で、楽しい経験となりました。
18歳の時と、50を越した今とでは感性はそう変わらないとしても、実際に行ってみる、行かないの違いや、視点の違いはあるわけで、再発見と言えるものが幾つか見つかりました。
何の情報も持たずに、一人ウロつく中で見つけたものというのは、自身の中で割と価値が上がるものです。
そんな場所の中で、今回モチーフとしたのは『焼杉』という、表面を火であぶった杉材が使われている『吉田酒造』という蔵元の建物のディテールです。
板材の表面を炭化させることで、虫よけと延焼を遅らせる効果が得られるそうです。
最後に『焼杉』の作り方が面白いのでお教えします。
まず、杉板3枚を『三角形の煙突』の様に組み、荒縄で縛り、垂直に立てます。三角柱の中空にカンナくずを入れ下から火を点けると、煙突効果で一気に火がのぼり、杉板の表面を真っ黒に焦がします。
程よきところで荒縄を解くと、杉板は三方にバタンと倒れ一気に鎮火。
アッという間に一丁上がり、という目からウロコの、単純かつ大胆な手法です。
写真集掲載写真
さて、写真の撮影ですが、被写体の脇を通る小路に人が居てくれないと今回の『人と建物』というテーマに合わなくなってしまいます。
熊手を担いだオジサンが話しかけてくれましたが、残念な結果になってしまいました。小学生も悪くないんですが何となくチグハグですし、結局、寂しげに自転車をこぐオバサンに落ち着きました。
2010年の春に、東京を引き払って、生まれ故郷の島根県松江市に移り住みました。
同じ頃、世界建築家会議東京大会での写真展の話があり、撮影素材を探すため、取り敢えず近辺をウロウロする事にしました。
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