一般的には祭りの撮影は事前の調査と行事の流れを的確に判断をし、テーマにあったシーンを写真に納める必要があります。

奈良井宿の夏祭りは、獅子屋台、神輿、御神馬の順に列を組み、通り囃子を若衆が演奏しながらゆっくりと宿場街道を進んでゆくお祭りです。場所も限定されており、2日間にわたるお祭りで、おまけに雨模様のため、今回のテーマにあった撮影場所が予め絞りやすい事もありました。

台風4号が来るとの天気予報のもと、初日は曇り、翌日は運悪く雨のち曇りの天気となってしまいました。 やはり祭りには傘やカッパは似合いません。透明なビニールに覆われた「獅子屋台」「神輿」「御神馬」などや参加する人達の傘やカッパ姿はやはり絵になりません。

あまり気にならないような写真を撮るかを気を使った「本末転倒の写真撮影」になった次第です。祭りの写真撮影も我々が普段撮影している建築写真同様天気が重要な要素であると多いに認識を致しました。

沿道の家々は簾を取り払い、屏風で飾った室内を見せ「祭のしつらえ」をし、神を迎える。

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 2011年の世界建築家会議東京大会に向け、日本建築写真家協会も写真展で協力するので作品を提供する様事務局より申し渡しがありました。
テーマは「日本の建築・風土・環境」で、世界から来日する建築家が興味を示す日本独特の人物が画面に入った写真をと言うことです。

 そこで思いついたのが重要伝統的建造物群保存地区に指定されている長野県塩尻市にある「奈良井宿」(中山道34番目の宿場)の夏祭りでした。 8月11日と12日の両日に氏子総出で行う鎮神社の例祭です。どうにか閉め切りには間に合います。

私は日本の祭りを追いかけ撮り続けている訳ではないので、今回は急遽出掛けて撮影をした「泥縄式の写真」です。

 今回の撮影では、組み写真ではなく1枚の写真で「日本の建築・風土・環境」を表現するために、祭りの背景となる伝統的建造物を重要視しました。
そのためヨコ位置の写真が多く、祭りに参加している人物や儀式そのものに視点がありません。それ故に力強いアップの写真も無く祭りの写真としては、少々不満に感じられたかもしれません。

▲ 創立10周年写真集掲載写真

11日の夕方には家家紋の祭礼提灯と簾が飾られ、宿場町の街並みをハレの空間にする。

鎮神社より裃姿の氏子若衆が通り囃子を演奏しながらゆっくりと進み、それぞれの若衆後に獅子屋台、神輿、御神馬が続く。

神幸祭当日は台風4号の影響で雨模様

Copyright  栗原宏光

鎮神社本殿前でお囃子の奉納

御神馬と飾り

神幸祭の前日11日にも獅子屋台が引かれ、夕方には若衆のお囃子の練習が見られる。

 今まで奈良井宿には何度か足を運んでおりますが、あまり観光的にならずに昔ながらの宿場の姿を両側に残した街並が今もあり、好きなところです。 日本の文化と「ハレの建築空間」を写真で見せれば、海外の建築家が会議の合間に見るのに適したシーンと考えました。

 写真を撮影する際には二通りのテーマの決め方があると思います。一つは自分の関心があるテーマで撮る。もう一つは今回のように先方からテーマを与えられる場合です。対象は世界の建築家達、テーマは日本の建築・風土・環境です。 しかも1枚の写真で表現をすること。おまけに人物を入れてとは、大変難しい。
私の後輩で祭りの写真を専門に撮影している友人がおります。彼のアドバイスを聞きながら、一緒にともあれ現地に行く事にしました。また現地で大学の女性研究者と合流し、お茶を飲んで話を聞いたり写真を撮ったりと「奈良井宿の夏祭り」ならではの比較的余裕のある撮影となりました。

奈良井宿 鎮神社夏祭

栗原宏光