Copyright : Shigetoh Watanabe
渡辺重任
この道には「この先、立ち入る用なし」こんな看板があるかのように、きっと住民を除けば明確な目的をもった者以外この先には進まないほうがよかろう、という佇まいがあった。そんな細く曲がった道を抜け、さびれた商店や住宅を抜けるとその光景があった。
もう大分前に働くことを終えた工場がこんな形で残っているのが奇妙だった。そして、背後に控える山、見渡す山の表情は、驚きを持って見るのに十分だった。
「何もせず暇にしていればただの失業者だよ。」そんな友人の言葉が響く大分以前のバブル崩壊時のことである。また時代を経て似たような状況になってきた。その友人は身近にある風景から自分の世界を作り、次のステップの足がかりを考えていたように思う。そんな時こそ作品だろう、と自分を急かす言葉が頭を駆け回っていた。
偶然見つけた「日本のグランドキャニオン」という文字に、行かずにおれない気持ちが芽生え、ただ荒地の風景だけを想像し出かけて行った。しかしその途中に待つ光景のほうが十分に強烈で、自分が思う現代という時が、どこかで止まっているようにしか見えなかった。多少の知る歴史が、用がなくなり放置され見える歴史となっていた。
資源を得ること、当時の国力や絡む政策でこんな風景が生まれることを、実感として伝わってくる場所であった。
最初に訪れてから大分時間経ち、これから訪ねられても同様な印象は得られないであろう。工場はようやく解体の手が伸び、山々も修復の結果が出つつある。私はこの山がうけた傷はこのまま残しておいたほうがいいと考えているが、実際はそうはいかないだろう。ただ山肌の記憶だけはしばらく続くに違いない。
写真展「山肌の記憶」に寄せて