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日本建築写真家協会

Japan Architectural Photographers Society

創立50周年写真集
50th anniversary exhibition

コラム

Column

年月を重ねたパレット — 奉還町・戸田屋

岡山市、奉還町商店街。
古くからこの街にある自転車屋「戸田屋」。
店の奥で、職人さんが車輪を抱えるようにして、修理をしている。
私は、この手が好きだ。
タイヤを押さえる指先と、車輪の内側へ伸びる手。
その手元を見ていると、自転車を直すという仕事が、毎日の暮らしのすぐそばにあることを感じる。
そして、その手を包む、この店が好きだ。
壁に掛かった工具。棚に積まれた箱や部品。
頭上の扇風機と、手前に重なる自転車のフレーム。
小さな店のあちこちに、目を留めたくなるものがある。
使うために置かれ、必要になって取り出され、また戻される。
そうした日々の繰り返しが、少しずつこの空間をつくってきたのだろう。
飴色になった木の壁に、金属の鈍い光が重なる。
箱の褪せた色も、使い込まれた道具の表情も、隣にあるものと馴染んでいる。
まるで、長く使い続けた油絵の具のパレットのようだ。
色が重なり、混ざり、乾き、その上にまた新しい色が置かれる。
その一つひとつを分けることはできなくても、重ねてきた時間は、そこに確かに残っている。
戸田屋の店内にも、そんな奥行きがある。
建築を撮るとき、壁や床、その形に目を向けながら、私はそこで過ごしてきた人の気配を探しているのかもしれない。
何をどこに置き、どこに座り、どんな姿勢で手を動かすのか。
人が使い続けることで、空間にはその人らしい表情が生まれていく。
この職人さんの手と、この店を、一緒に写しておきたいと思った。
車輪に向かう手の周りに、道具も、壁も、積み重なった年月もある。
そのすべてが一枚の写真に収まる、この景色が好きだ。

(posted on 2026/10/19)

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