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日本建築写真家協会

Japan Architectural Photographers Society

創立50周年写真集
50th anniversary exhibition

コラム

Column

街歩き(46)サン・ジミニャーノ(イタリア)

 8月の週末、トスカーナ州の小さな町に日帰りで出かけた。サン・ジミニャーノだ。居所から1時間弱のバスの便がある。この町は中世の風情が色濃く残り、13世紀の完璧な城壁に囲まれ、当時の塔が数多く残り、別名塔の町とも呼ばれている。
 町の入口のサン・ジョヴァンニ門からは歴史を感じさせる丸みを帯びた石畳がゆるやかな上り坂を作り、ほぼ一直線に町の中心のサン・ステルナ広場に向かって延びている。道をはさむ左右の家並みも一点透視の絵画のように広場に同じく向かって延びている。サン・ステルナ広場と隣接するドゥオーモ広場には、同時代の教会、複数の宮殿、執政館などが広場を形成している。その背後には現存する14の塔が広場を見下ろすように青空をバックに夏の雲と共演していた。最盛期には貴族や豪商たちの醜い虚栄のシンボルとして70を超える塔が乱立していた。但しこの塔には用途らしきものはほとんどない。
 30年程前に広場に面した宿に泊まり、ひと気を感じない夜半の広場に出てみたが、取り囲むポルティコや教会のタンパンの灯、宮殿からのほの暗い照明のみの明るさで中世の世界に導いてくれたのを思い出した。

 今イタリアもオーバーツーリズムが大きな問題になっている。
今回の日帰り旅も先に書いたような情景を求め出かけたが、押し寄せる人並みに嫌気がさし早々と帰路に付いた。帰路のバスがボッジボンシに停まると知り、ある映画を思い出し急遽下車した。その映画は1963年に公開されたイタリア映画「ブーベの恋人」である。主演のC・カルディナーレが出征する恋人からこの町の市で靴をプレゼントされ、始めて履く赤いハイヒールに悪戦苦闘しながら階段状のスロープを歩くシーンが思い出された。ちなみに恋人役を演じた男優は1961年公開の「ウェストサイド物語」の主演俳優の一人であるJ・チャキリスだ。
我々は階段をのぞむ小さなカフェで涼をとったが、ふと気がつくとほの暗い店内の奥の壁に色あせた映画のポスターがやや斜めにずれて貼ってあった。店主いわく当時のままだという。何か夢の中にいるような気分になってきた。この変哲もない観光客の姿もいない小さな町であるが、彼らにとってこの映画は町の歴史であり誇りなのだろう。

 再び帰路についたうたた寝の車中で夢の続きが始まった。
列車のデッキに佇み空虚な目で車窓をながめるC・カルディナーレの横顔の長回しのカットによる冒頭シーン、バックには有名な主題曲がながれていた。
気づくと日常見慣れたバス停がそこにあった。当初目指した町から逃げ出し、始めて訪れた小さな町で夢のような体験をした有意義な一日だった。
 次回帰宅したら、映画コレクションのDVDを引っ張りだし夢の続きを観てみよう。

(posted on 2026/9/17)

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