NO PHOTO NO LIFE ㊾ 対談企画 ゲスト
「舞踊団Baliasi」創立者 Chie Norieda 様
~山口県でのアー写撮影を終えて~
プロローグ
彼女とのご縁を頂いたのは、今から約12年ほど前の事になる。
舞踊団バリアージ10周年記念公演であった「動物達の謝肉祭」が行われていた会場のアートコンプレックス東京でのことだ。妖艶でサイケデリックでアバンギャルドで、けれど愛があって、それまでの自分が観た事がない舞台として強烈に記憶している。
ここでは割愛するがその後、様々な交流を通じてお世話になる事も多かったが、こちらが神奈川から山口へと移住をして以降、なかなか連絡を取る機会もなく、彼女の活躍は専らSNSで拝見するような状況だった。
ところが縁の巡りあわせとは非常に不思議なもので、今年の5月に彼女から1通のメッセージが届いた。内容は6年ぶりに山口公演を開催するというものだった。
人との縁は転がり始めると一気に加速する。忙しい中、山口公演前日にアー写のフォトセッションの為に時間を割いてくれると言うのだ。
そして光陰は矢の如く進み7月となり、撮影とバリアージ山口公演本番という僕にとってとても貴重な2日間は終了した。今回のゲストはそんな遠くなりかけていた縁に改めて光を向けてくれたありがたい素敵なアーティストとして舞踊団バリアージの創始者であるChieこと則枝千絵さんをお招きする事にした。

撮影は作業じゃなく、何かを生み出す共同作業
西田
先日は本当にお疲れさまでした。アー写の撮影から翌日の公演本番と素敵な2日間をご一緒できて、とても有意義な時間でした。公演も多くのお客さんが来場されて本当に素晴らしい空間だったよね。今日は僕が連載しているコラムのゲストとしてお越しいただいた訳だけれども、「日本建築写真家協会」という写真関係の専門サイトで連載しているコラムなので、まずは写真に纏わるお話しからお聞きしたいので、どうぞよろしくお願いします。
当コラムでは、これまで色々なシーンで活躍されている様々なアーティストの皆さんをゲストにお迎えしているわけだけれど、決まって皆さんに伺う最初の質問があります。
ズバリ!アーティストとしてのバリアージChieにとって「写真」というモノの存在意義とはいったい何でしょう?
バリアージChie
写真ってその瞬間を切り取るもので、舞踊っていうのは本来切り取られへん瞬間瞬間の変化であり、例えばポーズで一瞬ストップしたとしてもそれは常に動き続けているものの一部であって、それを閉じ込めるというか、収める「写真」ってある意味すごいことであり、もったいないことでもある。
一つはそのもったいないことにならないように、その写真の中でさえ私は「動き続けたいな」っていうのが、私にとっての写真を撮るチャレンジかなぁ。
躍動感だったり、息遣いだったり、そういったものが感じられるような被写体でありたい!
もう一つは、私がやってる舞踊は「自我をいかになくしていくか!」っていうのを大事にしてるんやけど、そこの空間、自然物、建築物、人、その場にある全てのものと溶け合えるか?融合できるか?自分が異質なものになっていないか?なんか違和感がないか?
そんな風に、その場に適応して馴染んで、まさに「個がありながらも風景になれるような写真」っていうものを撮りたいなって思いながら、撮影セッションしてる。
カメラマンさんとの意思の疎通はなにかテレパシーみたいなもので、アイコンタクトとかじゃなく空間コンタクトっていうか、波長が繋がればお互いもの凄いビンビンくるやん!?(笑)
撮る側と撮られる側の境界線がなくなっていく瞬間っていうのが気持ちいいなって。即興舞と似てるなって。撮影は作業じゃなく、何かを生み出す共同作業だし、人間性も映し出されてしまうから、舞踊と同じく研磨しながら意義や意味を持って今後も撮影に臨みたいなって思ってる。
西田
「何かを一緒に生み出している感覚」っていうのは、撮り手側としても正にその通りなんだよね。だから今回改めてバリアージを自分なりに詳しく調べて撮影に挑んだのだけれど、バリアージがテーマに掲げている「美と癒しの異空間」そんな言葉が匂い立つような写真っていったいどのようなものなのか?
僕がアーティストの方を撮影させてもらう時って、そのアーティストに対しての理解度っていうのが、とても大切だと思っているんだよね。
そのアーティストがどっちからやって来て、どこへ向かって進んでいこうとしているのか?
出来るだけベクトルを理解してアーティストと目線を合わせて、アーティストが見ている世界を共有してそれを写し撮りたい!ってね。だからChieちゃんからのそういった答えっていうのは非常に勉強になるよね。ちなみにセッションをした際にカメラマンに対する要望なんかがあったら是非お聞かせ願いたいのだけれども。

バリアージChie
呼吸が大事やなと思ってて。お互いの呼吸を合わせていくこと。カメラマンさんが呼吸早くてシャッターも切りまくられると、こっちはそれに動きを合わせないといけないから。
相性もあるけど、やってるうちに共振共鳴でリズムが生まれ、ポーズのタイミングや流動的に動く場合にも、互いが瞬時にキャッチできる感性が大事やと思ってる。私もそのカメラマンの撮るタイミングを感じ、「あ、この人はこういうふうに撮るんだ、じゃあ私はこうしよう」って試してみる。そういうお互いの信頼関係であり、呼吸をいかに合わせられるか、それってエゴが強めな人だとできないもんね。

バリアージChieにとっての建築物とは
西田
なるほど、まさにセッション!ライブと一緒なんだよね。踊りでも音楽でも撮影でも。
誰かと何かを生み出す共同作業ってさ。
2番目の質問はね、Chieちゃんは国内外において本当に様々な舞台で踊ってこられたかと思うんだけれども、所謂エンターテイメントの公演を目的として作られた場所だけでなく、歴史的に価値や意味を持つような建築物や建造物でも多くの公演を行ってきているよね。舞踊家としてのバリアージChieにとって建築物って何かを感じたりすることがあるのかな?広い間口で構わないので建築(物)について何か想いを語ってもらえると建築ファンの読者の方にも喜んでいただけるのかなって思います。
バリアージChie
神社仏閣での奉納舞も多くさせていただいていて、「熊野/花の窟神社」は巨大な岩が御神体。でイザナミのお墓。イザナミがどうやって死んだのか古事記はじめ様々な情報を入手し、自分なりに紐解いた上で舞いながらイザナミを召喚する。そうしたらイザナミのいろんな感情が渦巻いてくる。ちょっと巫女的な感じなのかな。それは自然物だけでなく建築も同じで、その場の記憶…残像や残響、思念とかそういう想いは、歴史的な建築物だったら特にエネルギーとして私たちに訴えかけてくるんじゃないかな。
西田
面白いねぇ
バリアージChie
スペイン/グエル公園やサグラダファミリアの中に入った時と外から見たエネルギーとは全く違った。建築って無機質なモノなはずなのに生き続けてたし、あの建築物は有機物みたいで自然の中で呼吸してるような空間!建築ってこういうこともできるんだって思った。
先日の山口公演を行ったコルトーホールも建物がまるで繭の中みたいな感じだったり、歪な形がまさしく海のカケラであり記憶のカケラだったなって。あのホール見た瞬間に、「ああ、ここで踊りたい!」って思った!
建物(箱)の中に何が入るかにもよるし、テーマや目的によって有機物にもなれる。
更に文化や伝統、技術、基礎、そういう鍛錬されたものと想いが集結して建物が出来上がっていく。それは舞踊作品創りでも同じ。最後にヘアメイクや衣装という装飾があり出来上がるが、外見だけ良くても中身がその作品と向き合いどう踊るかによって作品がどう生かされ生きるのかに繋がる。
西田
どれだけ箱が立派でも生きないもんね。それにしてもChieちゃん、ホントよー喋れるなぁ!対談で行う質問の打合せも一切しないで、いきなりの振りにもかかわらず、よくそれだけの事喋れるなぁ(笑)感心してしまうよ。まぁ、それがChieちゃんの偽りない感性だからなんやろうね。
バリアージChie
私本当は口下手やねんで(笑)
でも自分と何かが繋がった時には喋れるもんやね(笑)
あとね!ライアル・ワトソン(注1)っていう人が言ってることがすごいなって思ってんけど、「詩や音楽は時間の中に存在する。絵画と建築は空間の一部。踊りのみが空間と時間の中に同時に生きることができる。宇宙のメカニズムを理解するためのメタファーである。」
凄くない!?踊りのみが同時に存在できるって納得じゃない?
西田
座学というか哲学的な事に関する話だと思うんだけど、さすがだね。
結局のところ舞踊家といったって踊るだけじゃないんだよね。マインド含めての事であって。そのChieちゃんの踊りに対するあらゆる方向へ向いた飽くなき探究心があって現在のChieちゃんへと進化してるんだろうね。トップ・アスリートの方々とかもそうだと思うんだけど、ただ個人の身体機能が高いだけとかじゃないもんね。その事に向き合う真摯な倫理観だったり自己研鑽によって育まれるわけだよね。
バリアージChie
その通りだと思う!

私の中の異空間
西田
心技一体とはよく言ったもんだね。
それでは3つ目の最後の質問なんだけど、バリアージは『美と癒しの異空間』をテーマに挙げてるじゃない。実は僕も2年前の50歳を迎える歳から異空間をテーマとした撮影のプライベートワークに取り組んでるんだよね。僕の場合はね、おそらく人生の後半期に入ってきた中で、人々にとっての普遍というモノをテーマにした写真を撮っていこう!って決めたんだけど、その普遍を表現する上で、文化や習慣や時代というフィルターが入らない状態での撮影を考えた時に、「異空間」という世界観は表現できる幅がより広がるな!って思ったんだよね。だから、舞踊家であり舞台を創っていくという部分では作家でもあるChieちゃんにとっての「異空間」が持つ意味っていうものをとても聞いてみたかったんだよね。
バリアージChie
私の中の異空間って「ここじゃないどこか。」それは身体も思考もね。
身体はここにありながら踊りながら仮想の空間にも外国にも行ける。観てる観客にもそこにいざなう事ができる。(それには想像力というものがないとダメだけど…)
私を通して視る世界は、もしかしたら心象風景かもしれない…それが私にとっての異空間なんよね。
「ここ」でない何処かへ瞬時に連れて行けるのがアートのすごいところでバリアージの大事にしているところ。
だから身体的な技術を魅せて「かっこいい踊りだったね!」じゃなくて、内から発する非言語表現を観てお客さんが「これは海の中かな?」とか「あ、なんか懐かしい…」と瞬時にその世界に没頭できるその瞬間が大事。
想像力は自発性を生むし、ひとときその世界に没頭することは、自分の身体と心を癒し、大袈裟でなく結果平和に繋がると思うの。そういう舞踊でありたいと思っているし目指してる。
(注1) ライアル・ワトソン
動物学者、生命科学者、作家。
1960年代末から80年代にかけて、科学文明のあり方に疑問を投げかけて、一世を風靡したニューエイジ・サイエンス運動を代表する動物学者

後書き
その後も尽きない世間話を含めた彼女との会話は、昨今の憂いを帯びた世界情勢の件に関しても触れる事となった。
日本では80回目を迎える終戦記念日を目前に控えた中で、世界では戦火に包まれている国がある。
彼女が目指す舞台には、観る者の心と身体に癒しを与えようと、丁寧な感性で作り込まれたテーマが繊細に添えられている。きっとそのステージを観れば、誰でも単なる癒しに留まらない大切な気付きがあるに違いないと僕は思っている。
いつの世も、馬鹿げた事と変わらない大切な事をふっ、と思い出させてくれるのは、こうしたアーティスト達に違いないと僕は信じている。
唯一無二と形容される舞踊団バリアージ
その独自の芸術を用いてトップランナーでありながら今なお挑戦者として走り続ける彼女をこれからも応援している。
舞踊団バリアージ 創立者 Chie Norieda
公式サイト https://www.baliasi.com/
幼少よりモダンバレエを習い、18歳よりプロダンサーとしてTV、CM、PV、コンサートに多数出演。2003年バリ舞踊習得のためバリ島へ留学。帰国後、バリ舞踊×モダンフュージョン=美と癒しの異空間、一つのテーマが多彩に変化するという意味を持つオリジナルアジアンダンス「バリアージ」を確立。
様々な文化を取り入れながら創り出される独特な演出と振付けは、様々なアーティストを魅了しコラボレーションを行う。
ヨーロッパ、アメリカ、アジア各国での公演をはじめ、2018年平昌冬季オリンピック公式公演(Izanami project)、日本×スペイン国交400周年記念行事スペイン公演、日本×インドネシア国交樹立60周年公式公演に招聘、熊野本宮大社と花の巌神社での世界遺産登録15、20周年記念奉納舞、等国内外で高い評価を得ている。
出演スケジュール
8/5【神代の夜会】19:00~@代官山/晴れたら空に豆まいて
8/9【Kaori Hikita LIVE】18:00~@新浦安/Cellar & Tap Origins Table|
9/10【細胞解放ナイトvol.4】19:30~@下北沢/never never land
10/5【てしごとある暮らし】11:00~@千葉/チーズ工房「千」の庭
10/18【Colors vol.12】18:00~@なかのゼロ小ホール
12/13【ラブリエコレクション】14:00~@豊島区民センター小ホール
(posted on 2025/7/16)
Writer: 西田慎太郎