街歩き(37)サンモリッツ (スイス)
6月末に3年振りの海外出張でスイスに行ってきた。コロナ禍の影響で致し方無い事ではあるが、3年間も海外に出かけてないと空港でのチェックインの仕方も随分と無人化されていて、我々アナログ世代にはかえって時間を要してしまった。
今回は訪れたスイスの地方都市について2回にわたってコラムにしてみようと思い先ずは同国南東部の小都市サンモリッツについて書いている。
この町はベルニナ山系に囲まれ、サンモリッツ湖を北側の借景とし、南へとのびる傾斜地に都市部を形成している。過去に2度冬季オリンピックも開催されている事もあり、この町名は多くの人達に周知されている。
町はドルフ地区とバード地区とに2分されているが多くの観光客はドルフ地区に滞在するらしい。現に我々もドルフ地区のホテルに滞在したが、世界有数の観光地だけにリゾート地の名に恥じない洗練された優雅なたたずまいをいたる処で目にすることが出来る。
決して大きな町ではないが、高級ホテルや一流ブランド店が軒を連ねる一角が有り、冬季のハイシーズンにはパリやローマの有名ブランド店も臨時店舗をひらき、世界中からリゾート客が押しかけ町の人口も一気に3倍ほどになるらしい。
町の人口は6千人弱と聞いたが、歩いていての実感としては人口5万人ほどの中都市ほどの感を持ってしまう。
ここからは少々脱線覚悟で話をすすめるが、鉄道ファンにとってサンモリッツといえば先ずはレーティッシュ鉄道を語りたくなってくる。
同鉄道は沿線にサンモリッツやダヴォス等の世界的観光地をもち、有名な氷河急行、ベルニナ急行といった列車を走らせているスイス最大級の私鉄路線である。前記した有名列車の他にも季節にもよるがチケットの入手が困難な多くの観光列車を運行していることでも有名な鉄道である。
また同鉄道のベルニナ線は沿線の景観共々世界遺産にも認定されている。
今回は初めて両列車とも全区間乗車したが、なるほど車窓からの風景は世界遺産に指定されている名に恥じない素晴らしさを堪能できるが、鉄道ファンにすれば、列車は乗るのではなく眺めるものだと再認識させられた。沿線の有名なランドヴァッサー橋やブルージオのループ橋等も車窓から眺めると当たり前の話だが、橋を走行している列車が一切眺められない。我々が目にして脳裏に焼付いている光景は赤と白の車両がトンネルを抜け、橋の上を走行している光景だったはずだ。
何かの囃子歌に「同じアホなら踊なら損そん」というのがあるが、おなじように言わせてもらえれば「乗ったら損そん」と言ったところだろうか。
氷河急行を全区間乗車すると約8時間を要し時間にもよるが自席での無料の飲食サービスも受けられる。
走行する距離は300km程である。よって平均速度は40kmに満たない。
脱線ついでにもう少しお付き合い願えれば、沿線の高低差は実に約1,400メートル。7の谷をつなぐ橋梁は291箇所。91箇所のトンネルもある。それらを一つ一つ串で刺していくように峠を上り下りする。途中には峠をくねくねと敷設された線路、狭い場所での高低差を緩和するためのループ線路、スイッチバックも1箇所見受けられる。
そこで驚かされるのはこれだけ高低差のある勾配のきつい路線なのに全線が粘着式鉄道である。今回の旅では他にも多くの高所を走る鉄道、登山電車にも乗ったがその多くがラックレールを併用した鉄道であった。ラックレールといえば旧国鉄の信越線の碓氷峠を思い出すが今では見られなくなってしまった。
工事自体も難工事の連続で、よくもこんな所に鉄道を敷設したものだと驚かされる。それも100年以上前の話で当初はトンネルも手掘りでの掘削作業だったらしい。しかもメーターゲージ(JRと同じレール巾) で敷設している。牽引する電気機関車を停車駅で見に行ったが、見るからにトルクが高そうな無骨な機関車の重連運用だった。
話の脱線復旧が出来ないまま話の方向が違った方向に行ってしまったようだ。
サンモリッツの町に戻ろう。
スイスだけではなくアメリカやユーロー圏がそうなのだろうが、今回の旅で痛切に感じたのが物価の高騰。即ち円の弱さである。円高、円安についてはそれぞれの立場で多種な意見があるのだろうが、こと海外旅行に関して言えばおいそれと海外には出かけられなくなってしまった。
来月のドバイ出張も心配になってきた。
過去にも何度かスイスには行ってはいるので物価高の覚悟はしていたがそれにしてもであった。
最後になるがこの町には冬にもう一度行ってみたいものだ。滞在中には町のいたる処でインフラ工事の真最中でこれは冬に向けての準備らしい。町が雪に被われたクリスマス時期の写真を見たが2回も冬季オリンピックを開催した町に相応しい情景だった。
今回の町歩きは少々脱線気味で違う方向に行ってしまったようだが、次回は氷河急行の終点地ツェルマットに向かい町歩きを楽しもう。
(posted on 2023/8/10)