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日本建築写真家協会

Japan Architectural Photographers Society

コラム

Column

街歩き(31) パリ19区 (フランス)

2001年に公開された「アメリ」という映画がある。
当初は単館のみでの上映で封切られたが、世界的な大ヒット作品となりアメリ現象と言われる社会現象まで引き起こした作品だ。監督はP・Jジュネ。彼の作品らしくブラックユーモアや奇妙な人間関係が巧みな描写で描かれ映画は進んで行く。その中での多くのロケ地がパリの北部地域。特に19区のモンマルトル界隈では多くの町角が描かれ、同地区のカフェや青果店は現存し今でも熱心なアメリファンの聖地となっている。

 その映画の中で主人公アメリが19区のサン・マルタン運河で小石を水面に投げ水切りをする場面が描かれているが、この界隈は今でもパリの庶民の暮らしぶりが垣間見ることが出来る下町情緒満載の素晴らしいエリアだ。1938年の名作映画の舞台「北ホテル」もジュマペ河岸に現存し、ここ15年程はパリで最もホットな地域と呼ばれ、今までは地元の人々や運河巡りを楽しむ観光客がメインであったが、今後は新しい観光エリアとして期待が膨らむ地域でもある。

 今回紹介するラ・ヴィレット公園はこのサン・マルタン運河の北端に位置し、運河自体はセーヌ川アルスナル河川港からラ・ヴィレット貯水池を結んでいるが、この運河はなかなかの優れもので開通したのが1825年。上流と下流間の25メートルの高低差があるために9箇所の水門を設け水の注入出で水位調節をする作業を繰り返し25メートルの高低差を解消する。通常は車で20分ほどの距離だが、運河を利用して船で行くとなると2時間半ほどの時間を要する事になる。私も何度かこの遊覧船の船旅を楽しんだが、途中には暗渠があり、緩やかな弧を描く歩行者用の鉄橋、船優先の人力の踏み切り、何といっても一番のハイライトは水位調節により上下する遊覧船。時間の経つのも忘れてしまい、天気の良い日にはワインの小瓶でも持参すれば至福の船旅が待っている。

 さあラ・ヴィレット公園が近づいてきた。
公園の竣工は1989年。1982年の国際コンペで491件の提案から9つの提案プランが選出され、実施案としてランドスケープアーキテクトで建築家でもあるベルナール・チュミの案が選ばれた。
敷地は旧食肉市場の跡地があてられ未来志向の総合公園となっている。公園全体にはベルナール・チュミ設計のフォリーと呼ばれる赤い立方体がグリット状に配置されビデオアトリエ、案内所、カフェ、ミニシアター、コンサートホール等多方面に使用されている。
公園内にはこれ以外にも最先端の科学技術を紹介する科学産業シティ、その前面には巨大な球形の視聴覚ホールル・ラ・ジェオッドがあり公園全体のランドマークとなっている。
西側の音楽エリアにはクリスチャン・ド・ポルザンパルク設計の音楽都市や、最近竣工したジャン・ヌーベル設計のフィラルモニーも見学することが出来る。
広大な敷地ではあるが建築愛好家には著名建築家の巨大な建築群が数多く点在し一日中散策しても時間が足り無いだろう。アクセスとしてはパリ市内から複数のメトロ路線でアプローチが出来、中心部からは一時間弱での到着となる。

 昨今パリには多くの観光客が押しかけ市の中心部の観光地等は飽和状態に近い。私もコロナの影響でここ数年はパリに行けてないが最後に訪れた2019年にはルーブル美術館に入場する際には三時間の行列での待ち時間を強いられた。
その事を考えればラ・ヴィレット公園は19区という少々中心部から離れた地域ではあるが、先に述べたバスティーユ辺りからサン・マルタン運河の船旅を楽しみながら訪れるのには恰好の隠れ家的観光地なのかもしれない。
ついでに申せばパリのノミの市の中で最も規模が大きく、ノミの市の代名詞的な存在で別名泥棒市とも呼ばれているクリニャンクールのノミの市もすぐ近くだ。パリで盗難に遭っても翌日にはこのノミの市に行けば盗難品が見つかると言われている有名な市だ。

 市内の観光に飽きた人には北東エリアにあたる19区の公園で昼からワインを空け芝生の上で昼寝をし、その後は掘り出し物を探しにノミの市に出かける等のひと味違った観光を楽しむのもパリ観光のお薦めの一つかもしれない。

 まだまだパリの町はブラ歩きには事欠かない。さあ次は何処をブラ歩きしようか。

(posted on 2022/12/5)

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