日本建築写真家協会

Japan Architectural Photographers Society

コラム
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NOSTALGIC JAPAN㉞「注文服ヤマキ」 福岡県北九州市小倉北区

年に1回から2回のペースで北九州市小倉へ撮影に行く。小倉ではクルマで移動する事が多い。
毎度そこを通る度に気になるお店があった。すでに死語となっているのかもしれないが、あえてショーウインドウという言葉を使いたくなるようなファサード。ウインドウガラス越しに見える洋服を着せたボディと雑貨。ディスプレイされた小物たちが何とも良い雰囲気を醸し出している。10代の頃、よく通った表参道「同潤会青山アパートメント」を思い出す。入居していたお洒落な洋服屋さんは、もれなく店主の思いを込めたディスプレイが施されていた。何とも言い難いワクワク感があった。

そんな事を考えていると、運転をしている建築家のKさんが「ちょっとヤマキさんに寄っても良いですか?」と言う。断る理由など無い。まさに“願ったり叶ったり”だ。

聞くとKさんは「注文服ヤマキ」さんにて、とっておきの“一張羅”をオーダーしているとの事。暫し洋服のオーダーメイド談議に花が咲く。一度でもオーダーメイドした事がある人ならば、洋服を仕立て上げる素晴らしさ、着心地の良さが理解できるだろう。

以前はロンドンかパリのどこか古いアパートメントで使われていたものかも知れない。
そんな素敵な扉を開けると、ビシッとスーツを着こなす店主の木下氏がお出迎え。

やはり店主が渋く着こなしていると説得力が違う。誰が言ったのか忘れたが、“痩せて貧相なシェフが作った料理よりも、太って恰幅が良いシェフが作った料理の方が絶対に美味しいはずだ”そんな言葉を思い出す。

お店に一歩踏み込むと、木下氏の想いが詰まった空間が広がっている。
「喧騒から離れてくつろぐ大人の秘密基地」と言ったところか。
大人の遊園地?いやいや大人の社交場と表現すべきか。

こんな素敵な空間の中で採寸して貰うと、非日常感も相まって、洋服を仕立てる事が一つの儀式の様に感じる。

撮影が終わると木下氏のご厚意でマッカラン12年シェリーオークを頂いた。

フカフカのソファーに座って琥珀色に輝くシングルモルトウイスキーを眺めているとほっこりする。
人が心地良いと感じる空間の条件とは何か?そんな事を考えていた。

このゆったりした時間の流れはなにものにも代えがたい。

至福のひと時だった。

(posted on 2022/5/9)

海老原一己

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