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日本建築写真家協会

Japan Architectural Photographers Society

コラム

Column

NO PHOTO NO LIFE ㉑ ~大分県 国東半島 「両子寺」に魅せられて~

10月某日、撮影の仕事で大分県の国東半島へと出向いた。
伊美港から始発のフェリーにて姫島という離島に渡り、とんぼ返りで半島へ戻ってきてその後1泊2日で撮影を敢行するものだった。
僕は初めて訪れる旅先は決まって、できる限りの下調べを行ってから向かう。
その土地の土着的な文化をなんとなくでも知ってから訪れた方が、色々な事に想いを馳せながらファインダー越しの世界を切り取れると思うからだ。
国東半島を調べると、まず歴史的観点から「六郷満山」という大きなキーワードに突き当たる。山岳信仰の場が奈良、平安時代にかけて寺院の形態をとるようになり、そこから独自の山岳宗教文化が栄えていったらしく今も半島内に多くの寺院が存在している。
その中で、僕の目を一際引いたのが両子寺だった。
ネット上でその写真を一目見て「絶対に行きたい。」そう思った僕は撮影行程のさなか、両子寺へと機材車を走らせた。

小雨交じりの天気のなか到着した両子寺で待ち構えていたのは山門へと続く入口の両脇に立つ仁王像だった。
創建は718年とされているが仁王像は江戸の後期に作られたものらしい。
海外沿いの街から車で約40分、グーグルナビで徒歩計算すると約4時間の道のりと案内される。
車も電気もなかった文明開化を迎える前の時代の人々にとって、この景色はどのように目に映っていたのだろうか?
人里離れたこの山中で修行を行っていた僧侶たちは、やはり常人を超越した悟りをもっていたのではなかろうか?
そして、2021年を迎えた今でも、この場所の景色だけは江戸後期から変わっていないのではないか?
苔の生した仁王像の身体と山門へと続く石段を眺めるとそう感じずにはいられない。

周囲に誰一人いない静寂のなか仁王像に近づいて見上げてみると、時の移ろいのなかでも変わらぬ大切な事があることを知っている者の静かな息づかいが聞こえてくるようだった。

(posted on 2021/11/20)

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