日本建築写真家協会

Japan Architectural Photographers Society

コラム
column

カメラマンゆえの減量 

令和2年8月13日の午後4時半になろうかというところ、
天気は快晴で蒸し暑さの中、今月のコラムの締日を前にスタジオのデスクで今月の原稿を書き始めた。

普段はネタにあれこれと思案するのだが、今回は即座に決まった。
実はいま、減量を行っている。
6月の22日から始めて52日目を迎えるのだが、開始当初の体重から実に12㎏の減量に至っている。

日本建築写真家協会における公式サイト上でのコラムで「ダイエット」ネタが写真稼業とどう繋がるのだろう?と思う方がほとんどだと思うが、この減量は自分がカメラマンだったからこそ成しえた減量だったと思う。

僕は建築写真以外にポートレートの撮影やグラビアの撮影も行うカメラマンとして活動している。実は最近僕のポートレートをこれまで支えてきてくれたモデルさんのうちの一人の撮影が滞っている。理由は本人曰く「肌の調子も悪く、加えて痩せれん!」というものだった。

モデルとしてレンズの前に立つ子は、みな美意識が高い。
これまでモデルの子たちからそんな言葉が出てきたとき、僕はきまって「全然そんなことないよ!気にすることないよ!」と元気づける言葉を告げて撮影をしてきた。
しかし、今回はそれでも撮影に辿り着けない。これまでと様子が違うのだ。

そんなとき、僕が敬愛してやまないグラビアカメラマン界の巨匠である渡辺達生さんが著した「おんなの撮り方 渡辺流」(小学館発行)を読み直していて、はっ!っとさせられる部分がいくつもあった。
巨匠は著書の中で「とびきりの笑顔がもらえるなら、ぬかるんだ地面でも土下座する!それほど笑顔に身をささげている!」や「いい歳をして何やってるんだ!と撮影現場を覗いた人からは呆れられると思う!でも笑顔が撮れるならそれでいい!」等と述べている。

要は被写体であるモデルの子を素晴らしく撮るためなら、どんなことも厭わずやる!その気迫が職人としての巨匠のプライドなのだろうと改めて思った。

今の自分はどうだろう?
なんでもするどころか、そのモデルの子に対して撮影に辿り着けてさえいない。

そう我が身を振り返った時、これまで自分の撮影意欲を優先してモデルの子の気持ちを親身になって受け止めてあげられていなかったことに気づいた。
僕は、産業カウンセラー(JAICO)のライセンス保持者でもあるのだけれど、確かにそうだ。
相手を理解するうえで必要な傾聴の極意の一つは共感的理解であり、まずは気持ちを受け止める事。

それに気付いたとき、これまでの僕の安易な励ましは、悲痛な思いで心境を吐露しているモデルの子たちからすると気持ちが届かない相手になっていたのかもしれないと感じた。

僕は自分の事に対しては無頓着なので、ここ数年ダイエットなど他人事で過ごしていた。
よって、もちろんメタボゾーンに突入していた。
そんなカメラマンから返ってくる「気にしなくていいよ!」はダイエットの悩みを抱えながらレンズの前に立つことを迫られているモデルの子たちにとって、何の励みの言葉にもなっていなかったのかもしれない。
「共感を相手に伝えるために何ができるだろう?」そう考えている時に、ふと思い立ったのが、自らダイエットに挑戦してみる!という選択だった。

日頃からストイックに健康維持、体形維持に努めている人たちからすれば、わざわざ言うほどの事でも無いかもしれないが、仕事もストレスも多く、休みも少なく、運動する時間もなく、そんな日常を送っている人は多い。その中でせめて食べることが細やかな楽しみという人も多いだろう。
そういう人たちからすると、ダイエットは何気にハードルの高い事だと思う。

自分なりの美意識に沿うよう、しんどいダイエットと闘っているそんなモデルの子たちの気持ちを一緒に理解できたら、、、そう思って始めたダイエットだった。
自分の健康の為だけなら、怠けてできなかったと思う。
しかしカメラマンとして、この仕事がどうしても好きで、目の前にいるモデルのみんなを最大限美しく撮れるようなカメラマンとモデルの間柄を築ける撮り手でいたい。
そう思うと、地道な毎日の繰り返しだが少しずつ減量は成果をあげた。

そして減量5㎏を過ぎたあたりから、もう少し自分の考えが進んだ。
それは、この減量がモデルの子たちに「僕も一緒にやっているから辛さは十分わかるよ!」
とあたかも彼女たちの為に行っていると思わせるようなアプローチであってはならないという事。僕のダイエットが彼女たちにとって更なるプレッシャーになる可能性があるからだ。

何でもそうなのかもしれないが、「誰かのため!」などという大義を口にするなんて僕自身においては恐れ多い事だと思う。
きっと僕は心の奥底で「そんな彼女たちの気持ちをきちんと理解して受け止められるカメラマンでいたい」
誰の為でもなく、そんななりたい自分の姿を目標に定めた自分自身の為に続けた減量だったのだと思う。日々6㎞を走り、極度の食事制限を行いながら筋トレに打ち込んで減量を続けられた理由は、どんなことでもいいから、少しでもその道を極めていく為に今やれることを直向きにやることが未来に繋がると信じているからだろう。

どんな職業でも目指したならできることは何でもいいからやってみる。
極めたい!と思ったとき、未来の「なりたい自分」の姿が一つでも具体的に見えたら挑戦を臆さない自分でいたい。

カメラマンだからできた減量のはなし。

(posted on 2020/8/20)

西田慎太郎

Writer:

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