七転び八起きした盟友
スタジオでじっとしていても汗ばむような湿潤な季節になって暫くが経つ。
サーキュレーターの前で無理やり涼をとっていると、築半世紀近いマンションに設置された呼び鈴が鳴った。レトロすぎる音で、ある意味モダンな感じがして嫌いな音じゃないなぁと思いながら玄関を開けるとクロネコヤマトさんが笑顔で荷物を持っていた。
外の酷暑を考えると、その爽やかな笑顔とのコントラストはあまりにも激しすぎて、サービス業の過酷さをこちらの方が胸の裡でひしひしと感じてしまい、冷たい麦茶でも振る舞ったほうが良いのではないのだろうか?っと、そんな気持ちにさえなった。
届いた荷物を開梱すると、発注しておいたニッシンデジタルさんのストロボDi700だった。
それはもちろんMG10やMG8が使えるならそれに越したことはないのだが、プロカメラマンのはしくれとして、費用対効果を意識して機材は選んでいる。
届いたものは5台目のDi700だ。
仕事や作品撮りにおいて3灯のライティングが必要なときがあるためにプラス予備1台で4台のストロボを常備しているのだが、遂に初号機である1台が先日力尽きてしてまった。
本当に沢山の場所に一緒に出かけて、たくさんのモデルさんを僕は写して彼はそこに光をくれた。
試行錯誤でやみくもに発光させて撮るしか能がない未熟なときから、文句ひとつ言わずに彼は伝えた光量で光を返してくれた。彼無しでは僕は写真をやってこれなかったと思う。
けれど、彼にも一つだけ短所があった。
それはよく転ぶ!ことだった。
浜辺で転び
森で転び
河原で転び
林で転び
岩場で転び
遊歩道で転び
階段で転び
湖畔で転び
歩道橋で転び
しかもモデルさんの髪が美しくなびくような風の吹く最高のシャッターチャンスで、ここぞとばかりに転ぶ。
アシスタントを従えて写真を撮れるような立場にない僕は、それこそ彼と二人三脚で撮影してきた。
彼は一人で三脚をつかっているにも関わらず、よく転んだ。
そんな滑稽さが自分の人生を見ているようで、苛立ちよりも気持ちが和んだ。
転んでも転んでも、適切な光をくれた大切な最初のパートナー。
それは、七転び八起きの精神を撮影現場で常に忘れべからずと僕に言い聞かせてくれる人間以外の盟友の一人だったのかもしれない。
お疲れさま。スタジオの守り神として飾ることにした。
これから5人目の新たなチームメイトと撮影現場で闘う。
(posted on 2020/7/20)
Writer: 西田慎太郎