奉還町、油絵のような時間

岡山市北区、奉還町。
昔ながらの商店街を歩いていると、ふと足が止まる店がある。
「custom shoes planning BUHI」。ガラス越しに覗いた店内の景色に、思わずお店に飛び込んでいた。
棚にはワックスの缶、革の切れ端、年季の入った靴型。
奥の壁には作業中の一足がぶら下がり、その手前で、職人さんが黙々と靴と向き合っていた。
眼鏡の奥の視線は、手元だけに注がれている。
その手が、私は好きだ。
道具を選ぶ指先の迷いのなさ。
革を撫でる手つきのやさしさ。
何十年もかけて、身体に染み込んだ動きなのだと思う。
棚の並びも、置かれたモノひとつひとつも、きっと最初からこうだったわけではない。
毎日そこに立ち続けた時間が、少しずつ積み重なって、今の佇まいになった。
乱雑なようでいて、実は職人さんにしかわからない秩序がある。
そこには、その人の生き様と美学が、そのまま形になって残っている気がする。
ガラスの反射と、奥の照明の影と、棚に積まれたモノたちの色。
何層にも重なって見えるその景色は、まるで油絵の具を幾重にも塗り重ねたようだった。
一枚のガラスの向こうに、その人の時間そのものが閉じ込められている。
そんな気がして、しばらくその場を動けなかった。
建築を撮っていても、結局いちばん惹かれるのは、そこに宿る人の気配なのかもしれない。
職人さんの手と、積み重なった佇まいと、その奥にある美学。
これからも、そういう時間に出会うたびに、カメラを向けていきたいと思う。
(posted on 2026/9/19)
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Writer: 戸坂良枝
