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日本建築写真家協会

Japan Architectural Photographers Society

創立50周年写真集
50th anniversary exhibition

コラム

Column

街歩き(44)マナローラ (イタリア)  

 トスカーナの隣州リグーリアの小さな漁村マナローラに行った。
この名を聞きあっとなる人は少ない。いやいないかもしれない。

 地理的には州都ジェノバの南域に東西約50kmに渡り、急峻な山塊がそのまま海に滑り落ちるような崖を形成している地域がある。海は地中海である。その山域を大きく鉈でぶった切ったような高低差のあるV字谷が開口部を形成し、扇状で海に開いている。そのような開口部、すなわち村が5カ所点在し、総称でチンクエテッレ(5つの村)と呼ばれ、その一つがマナローラである。

 どの村も鉄道開通前は海からの路しかなく、その鉄道も山域の中腹をトンネルで走っている。谷の上部の狭地な開口部に駅があり、その両端はトンネルが口を開いている。駅からは一本の道が坂を作り海に至っている。両壁には民家がへばりついている。学生時代に訪れた時は海に接した広場には露店の魚市場があり、海には小さな漁船が浮かんでいる僻村だった。その広場は今、大きなカラフルなパラソルが涼しげな居場所を作り、レストラン、カフェが海に向かって開いている。広場には魚市場もなく、漁船の姿もない。ちょっとしたリゾートになっていたが、あくまでも庶民のリゾート地だ。

 現に我々の崖の上のホテルも部屋数が6部屋の安価なホテルである。
窓からの眺めは、印象派の画家達が好んで描いた光の粒子を感じるようなあわあわとした光ではなく、バロック期のカラバッジョの画のような陰影の強い風景だが、パステル調の民家の外壁のせいか陰影はかなり融和されている。海には3本の潮目が大きな大河のように沖に向かって流れ、一隻の小さな船がその流れに抗うように港に向かっている。このようなパノラマ的な風景が一握出来るなんて得した気分になった。熟した陽のせいで外界はすっかり夏模様だ。午後4時だというのに陽はまだまだ高い。よって我々は坂を下り、磯に出て磯遊びを楽しんだ。小さな潮だまりは陽がキラキラと反射し、水気がもくもくと揮発しているようだ。

 この地は浮世であり、決して常世ではない。
こんなひねもすのたりな日常、わるくない。

(posted on 2026/6/27)

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