街歩き(29) パリ7区 (フランス)
久々にパリに戻り街歩きを楽しんでいるが、何故か我が町に帰ってきたようなほっとした気分になってくる。
よく第二の故郷という言い方を聞くが私のそれはイタリア トスカーナ地方の小都市プラートで間違いない。多感期の一年間を右も左も分らない片田舎で過ごせば当然の結果であろうが反面、パリの街も多くは仕事ではあるが過去に三百泊を下らない滞在経験があればこの街も第二の故郷と言えるのかも知れない。
そんなパリの街で今回紹介するのはケ・ブランリー美術館。4区に建つポンピドゥーセンター以来30年ぶりの国立の美術館である。
フランス語で河岸の事をQuai (ケ) という。パリ7区にあるセーヌ河左岸 ケ・ブランリーに同名の美術館はある。
2006/6に開館し、エッフエル塔を間近に仰ぎ見るブランリー河岸にスケールアウトの観光船が河岸に座礁したが如くカラフルな船体?を横たえている。
設計者は以前紹介したグランプロジェのアラブ研究所の設計で名をはせたフランス人建築家ジャン・ヌーベル。今回の作品もそうだが彼の設計に対する多様性には毎回驚かせられ又楽しみでもある。
さあ美術館に近づいてみよう。来館者は先程述べた難破船の船底を仰ぎ見る事になりその迫力に先ずは圧倒させられる。外壁に目を移すと、三十個は有ろうかと思われるカラーボックスの凹凸がアクセントを与え緊張感を和らげてくれる。
地上に目を移せば外構にはすっかり馴染んでいるススキ等の植物が無作為的に配置され、時折吹くセーヌからの川風で揺れ動き、そのススキの群生の中に半透明のパイプ状の照明器具となる発光体が乱立し、夜になればその発光体から放たれる七色の光が船底を照らし出しまことに幻想的である。よって好みから言えば圧倒的に夜訪れるのがお薦めだ。
展示室は二階に位置し、エントランスを入ると蛇行する長いスロープを登り真っ暗なトンネルをくぐった先の展示空間にたどり着く。常設展示エリアに入って先ず驚かせられるのは処狭しと並んだ展示物だ。ヨーロッパと中東を除いた他世界、アフリカ、オセアニア、アジア、南北アメリカの現地の人々が生み出した諸々の民族造形物約4千点が展示されている。
日本の展示物も充実していて、日本でもなかなか目に触れることの少ない人々の営みの中から産まれたであろう造形物には興味津々になってくる。特に興味を持ったのはアフリカ諸国の仮面のコレクションだ。その数の膨大さ、多種多様な表現、形態にはアフリカ大陸の広大さを改めて思い知らされる。
日常目にすることの少ない民族展示物を楽しんだ後には一階ピロティの一画にあるミュージアムショップを覗いてみよう。ここのショップの品揃えの充実感は群を抜いていて、展示室で目にした陶器、磁器、仮面、織物、タピストリー等のレプリカの土産類に魅せられる。自身も数点焼き物のレプリカを購入したことが思い出される。
ショップの先にはカフェブランリーがあり簡単な食事も提供され、冬の撮影後の熱々のオニオングラタンスープは逸品だ。
又時間、予算に余裕が有れば当館の屋上にある、フランス語で影を意味するレブルゾンなるレストランに出向くのもお薦めだ。場所柄無国籍のエスニック料理を提供するが、料理は勿論素晴らしいが、客席からはエッフエル塔が手に取るように眺められ,西側にはセーヌ河、その先のシャイヨー宮までもが一望できそれを目当てにする旅行者も多いらしい。
話しは変わるが昨今のパリでは骨董収集がブームのようだ。
当館からは少々離れるがパリ6区周辺にはアジア、オセアニア、アフリカの民族品を扱う古美術商が軒を並べ、特にサン・ジェルマン・デ・プレ周辺、ボザール通り、ジャコブ通り、ゲネゴー通り辺りを逸品探しに散策するのも退館後の楽しみの一つだ。話しを7区に戻すと、観光客の多くはエッフエル塔観光後にはこのエリアを後にする。当館は勿論だが近くにはナポレオンが永遠の眠りについているアンバリッド、私が幾度となく世話になった日本文化会館、セーヌを渡ればシャイヨー宮内の建築・文化博物館、ロダン、オルセー両美術館も同区にあるなど見るべきものが沢山ある。又、セーヌの遊覧船の発着場も間近だ。是非パリ訪問時には訪れて欲しいエリアの一つである。
やはりパリの街歩きは楽しいものだ。暫くはこの街のブラ歩きにお付き合い願おう。
(posted on 2022/10/5)