街歩き (7) スヴァネティ(ジョージア)
今回の旅は、黒海とカスピ海に挟まれ日本人には馴染みの少ない旧ソ連邦に属していた国ジョージア。3年前まではグルジアの名で呼ばれ、首都は国の東部に位置するトビリシ。当然ながら日本からの直行便は無くイスタンブール経由での入国になった。あまり知られていないが、この国はワイン発祥の地と知られその歴史は古く、楊貴妃やクレオパトラが愛飲した記録が残っているらしい。さらにその銘柄は現在でも醸造され高級ワインとして愛好家の喉を潤している。最近は日本でも数多くのグルジアワインを扱う店が見受けられる。
国民は熱心なグルジア正教徒が多く、キリスト教を国教と定めた世界で2番目に古い国でもあり、多くのラテン十字プランの大小の教会が見受けられ、内部は正教独特のフレスコ画で装飾されている。
トビリシ周辺での撮影を終え、この旅最大の目的地スヴァネティ地方に向かう。先ずはこの地方の中心都市メスティアまで10時間の車移動。その後四駆のジープに乗り換え急峻な渓谷を形成しているV字谷の砂利道を2時間、やっと最初の目的地のウシュグリ村に入った。この村の標高は約2,400メートル、ヨーロッパで最も高い標高の定住集落らしい。村の背後には万年雪を被った5千メートル級のコーカサス山脈が目前に迫り、その雪解け水が早瀬を形成し村の生活用水として活用されている。
この辺境地の村を有名にしているのは1996年にこの地に残る聖堂、住居,塔などの建造物群が世界遺産に指定された事が大きい。聖堂の内部を飾る美しいイコンの数々は中世グルジア美術の水準の高さを今に伝えるものだし、特に興味をひかれたのは村民達が今も住んでいる塔状住居だ。ほぼ4階建てに相当する階高をもち、下方から家畜小屋、穀物倉庫、上層が住居になっている。この形状は村々間の争い時に簡易要塞になり、自身の家畜、穀物等を守ったらしい。村の谷間にニョキニョキと石積の塔がコーカサスの雪山を背景に競い合って立っている風景はイタリア中部の山岳都市を彷彿させる。
この村には当然ながら宿泊施設がなく人生初の民泊を体験した。食事は宿泊先夫婦の手料理を堪能したが、チーズ、ハム、ミルク、ワイン等は自家製だし、食材は全て自給自足である。いささか閉口したのが住の方である。ガス、水道は無く電気は自家発電で補っている。特に風呂、トイレにはこの先も体験できない素晴らしい?経験をした。トイレは雪解け水が激しく流れている川の上に2本板の張りだしを作りそれに跨がり用を足す。まさに天然の水洗トイレだ。風呂はその用を足した川の雪解け水を汲んできて、満天の星空の下素っ裸での沐浴だ。空を見上げると手が届く程の処に天の川が横たわり星雲までもが判明出来た。以前タヒチのモーレア島で見た星雲に匹敵する美しさだった。今回は同行学生の中に天体少年が居て詳しい解説付の裸での天体観測となった。学生の中には村人の馬に乗り隣村まで出向く強者も現れた。この地域にはこの先再訪は難しいだろうが多くの村人達の笑顔がいまだに蘇ってくるのは特別な出会いの旅だったのだろう。
短期間であれこのような非日常の生活をしていたため帰国時にはイスタンブールで2日間の文明社会復帰へのリハビリ時間を設け、最後の夜、文明社会のイスタンブールのレストランで打ち上げをしたが、村での生活、村人達との思い出しか話題に上がらなかった。
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(posted on 2018/4/7)