日本建築写真家協会

Japan Architectural Photographers Society

エッセイ
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画像は消滅する! ビネガーシンドロームとは   中塚雅晴

学生時代に撮影をした写真を探し、自宅の押し入れの段ボールを久々に開封した。思い出と共に現像の時に使った酢酸の匂いが立ち込めてきた。
あれ〜ぇ?  水洗不足だったかな? 40年以上も経っているのに今さら・・・・?
よくよく調べてみると35mm白黒ネガフイルムから臭っている。ネガケースの中でベト付いて、丸まっている。物によってはチジンでワカメのようになっている。何とか元に戻らないかと30分ほど水洗をし、乾燥を試みるも余計に丸まってしまい最初よりもカールが強く丸まりダメになってしまった。

ネットで調べてみたところ、この症状はビネガーシンドロームだそうで、1940年以降は35mm映画フイルム、マイクロフイルムなどを含むほとんどのフイルムはセルロースアセテートベース(酢酸セルロースベース)で出来ていました。これ以前はニトロセルロースベース(硝酸セルロースベース)のフイルムで科学的不安定性と燃えやすいと言う欠陥をもち、高温多湿条件下では、自然発火の恐れもあり、1984年 東京国立近代美術館フイルムセンターが火災で焼失したのもニトロセルロースの映画フイルムが原因だそうです。これらの事からニトロセルロースベースに変わり自然発火しない安全フイルムとしてセルロースアセテートベースが産まれたそうで、適切に取扱えば、100年期待寿命を持つと思われていました。しかし、温度や湿度管理がされていない環境で保管した場合は、ビネガーシンドロームと呼ぶ化学反応を起こし、100年経たずに劣化するそうです。

それでは、ビネガーシンドロームとは、セルロースアセテート連鎖を形成するアセチル基が水分、熱、酸によって加水分解を起こし、フイルムベースが溶けて行く事です。日本の環境の湿度70%、温度29℃で保管すると30年程度でビネガーシンドロームが発症するそうです。特に空き缶などの密閉容器に保管されたフイルムはアセチル基が酢酸に化学反応を開始すると、その酢酸が触媒となり連鎖反応を加速します。密閉状態の場合、反応が起きていないフイルムにも感染するように反応が起きてしまうそうです。

臭いがきつくなり、フイルムが縮みとゆがみが始まる。その前に、しておかなければならない事があります。臭いのあるフイルムから臭いのしていない初期段階のフイルムを隔離する。隔離したフイルムは冷暗と除湿と発生する酢酸ガスを除去することで進行を遅らせる事です。ただ、温度5℃、湿度50%以下、換気により発生ガス除去の条件は厳しく、専門業者が行っていますが、個人では難しいです。

堀内カラーに問い合わせをしたところ、個人で出来る範疇としては、隔離するフイルムは密閉容器ではなく湿気を調整し易い中性紙段ボールの箱に汚染ガス吸着シート(Gas Q)と共に入れて、西日の当たらない涼しい部屋で管理する事だそうです。因にネガケースはビニール製ではなく中性紙でサンドしてくださいとの事です。昔のネガケースは酸性かアルカリ性かについて、考えが至っていなく、酸性はビネガーシンドロームを進行させ、アルカリ性は乳剤面のゼラチンが動物由来の成分の為に影響を与えるとの事です。従って、フイルムに直接触れる物は中性が良いとの事です。そのうえで、少しでも早くデジタルスキャニングにより貴重な画像を保護する他はありません。

最後に肝心な事を忘れていました。ビネガーシンドロームでカールしてしまったフイルムはどうするか、堀内カラーの話では最後の救済策として、フイルムにアイロンを掛けてデジタルスキャンするそうですが、100%成功するとは限らないそうです。それと、1995年以降に製造されたフイルムはポリエステルベースフイルムで、ビネガーシンドロームの心配はありません。ただ、現像処理が完璧でないフイルムは画像抜けや斑が認められるので、完全に安心という訳ではありません。

ビネガーシンドロームは大分以前から騒がれていたそうで、マイクロフイルムは国立国会図書館、国立大学など色々な所でデジタルスキャンが行われ、今ではもう遅い情報なのかも知れません。しかし、個人の写真家の方々はまだ、気づいていないかもしれませんので、ここに皆様がビネガーシンドロームの犠牲者にならないように報告致します。

加水分解が進み、乳剤の分解が始まり、ベト付いた酢酸セルロースフイルム
加水分解が進み、乳剤の分解が始まり、ベト付いた酢酸セルロースフイルム

加水分解が進み、強いカーリングが発生した酢酸セルロースフイルム
加水分解が進み、強いカーリングが発生した酢酸セルロースフイルム

進行を遅くする対策をした保存容器 ( アーカイバル容器+容器の底と蓋の裏にGas Q  ㈱資料保存器材 )
進行を遅くする対策をした保存容器 ( アーカイバル容器+容器の底と蓋の裏にGas Q ㈱資料保存器材 )

(posted on 2017/8/8)

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