日本建築写真家協会

Japan Architectural Photographers Society

エッセイ
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額縁から見える風景 海老原一己

建築写真撮影を生業にしていると、日本全国通津浦裏、写真家によっては世界各地へ出かける機会が多い。私の場合、どちらかと言うと観光地よりも、撮影がなければ一生涯訪れる事も無いような場所へ行く事の方が多い。

今度はどんな建物と巡り合うのかという楽しみとは別に、その建物の内部から窓枠=額縁を通して見える景色にも期待する。

世界には色々な額縁から見える景色がある。さえぎるものが何も無く、何時間でも眺めていられる美しい風景。絵葉書のような街並みが見えたり、夕暮れに紅く染まる海が見えたりすると心が癒される。自然豊かな田舎へ行くほど、額縁から見える景色が良くなる。何を持って素敵な景色に見えるのかは人それぞれだが、私の場合は素朴な自然の山なみが良い。

ロケーションが良い土地=建物から望む景色が良い土地を託された建築家は、熟慮を重ね、内部と外部の関係性を考慮して、愛着のある地元の山なみや美しい自然の風景を額縁から魅せるように設計する。

過去に訪れた建物から「額縁」を通して撮影した山なみを羅列してみた。

八甲田山(青森県)・岩木山(青森県)・磐梯山(福島県)・安達太良山(福島県)・西吾妻山(福島県・山形県)・妙高山(新潟県)・浅間山(長野県)・赤城山(群馬県)・男体山(栃木県)・那須岳(栃木県)・筑波山(茨城県)・武甲山(埼玉県)・鋸山(千葉県)立山連峰(富山県・岐阜県)・穂高連峰(長野県)・八ヶ岳(長野県)・白峰三山(山梨県・静岡県)・丹沢山(神奈川県)・富士山(山梨県・静岡県)。どの山なみもそれぞれが素晴らしい眺望に恵まれており、思い出深く脳裏に焼きついている。施主の皆さんの素敵な笑顔が思い起こされる。

リビングの大きな窓から望む山なみ、バスルームの窓から望む雄大な山脈は、季節の移ろい、時の流れ、天候の変化等と共に様々な顔を見せ、その表情は刻一刻と変化していく。毎日の生活の中にこんな素敵な風景があるだけで穏やかな気持ちになれる。

額縁から望む山なみの中で、最も撮影する機会が多いのは「富士山」。
山梨県や静岡県方面から撮影依頼が来ると気が気で無い。特に山梨県は富士五湖周辺、静岡県では沼津市や裾野市などの東部には「富士山」を意識して設計された建物が多い。漏れなく「額縁を通して情景的な富士山を撮って欲しい」というリクエストが付いてくる。
また、冬場の空気が澄んでいる季節には、千葉県富津市や木更津市などから東京湾越しに優美な富士山が堪能できるので気がぬけない。

そして、気まぐれな富士山は直ぐにへそを曲げてしまう。先ほどまで良く見えていたのに、レンズを交換している間に雲の中へ消えてしまう。一度へそを曲げてしまうと中々機嫌が直らない。諦めて機材を片付けていると、嘲るように現れる。何度出直した事か分からない。

写真は今年の3月、まだ肌寒い日の早朝に、三浦半島の先端に建つ別荘から相模湾越しに撮影した富士山。画面右下には漁船に群がるトンビとカモメが写る。
気温の上昇と共に昼過ぎには霞に包まれてしまった。

GE Mt.FUJI

(posted on 2017/6/5)

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