日本建築写真家協会

Japan Architectural Photographers Society

コラム
column

街歩き (21) 諸葛村(中国 浙江省) 堀内広治

トイレットペーパーの話しから始めるが、仕事柄海外出張が多く、旅の必需品と言えばパスポートは勿論であるが、私が次に挙げるのがトイレットペーパーである。20数年来訪問先が先進国、発展途上国であろうと不変である。即ち国産の紙が肌?に合いそれ以外を使用すると肌荒れ?に悩まされる。常に旅行ケースには3巻の肌に合う紙が常備されている。

さてそろそろ街歩きのコラムを書き始める。
今春に私が通う大学の学生達と同行し、中国浙江省の奥地に現存する明、清時代を始建とする村々を訪ねる旅に出た。この旅では大学に在籍するM-2の中国からの留学生がコーディネーターを務めてくれたが、彼女達は杭州の大学時代にこれらの村々の調査をした経緯があり、そのおかげでかなり奥深い所への旅でもあり、珍しい村々への訪問も可能にしてくれた。
浙江省の中心都市杭州から車で3時間、諸葛村はその名のごとく三国時代の諸葛亮(孔明)の24世がこの場所を定め八卦(はっけ、古代中国に伝わる易における8つの基本図像)を基に村が建てられた。これが1340年頃の話しらしい。よって今見る村には明清時期の屋敷が数多く保存され、大型の宗祠がいくつも現存している。

前日の夕刻に村に入り一泊し朝を迎えると、民泊した施設前の池越しに建物が幾十にも折重なり、霞雨の中にすっぽりと包まれていた。村の中心でもある鏡池では村人が洗濯をし、食器を洗いおしゃべりに興じている。広場ではないが村の情報交換の場であり、来訪者には静止した時間の中に身を委ねる至福の場所でもある。
池を取り囲む様に建つ木造の2階建て民家の上部には真っ赤な提灯が掛かり、民家の焦げ茶色の外壁とのコントラストがいやが上にも旅情をかき立ててくれる。
40年ほど前に旅した同じ浙江省の蘇州を思い出す風景だが、今の蘇州にはこのような古き良き時代の中国を彷彿させる風景は存在しない。
さらに村の奥に入っていくとさすがに先導者無しには進めない。まさに八卦の迷宮に入り込んだがごとくの迷路、迷路の連続で、モロッコ フェズのメヂィナを思い出した。これでは外敵が侵入しても容易に出口を探せないだろう。
フェズのような観光地では迷宮を案内する公式ガイドが居るが、観光地でも無い諸葛村では前記した二人の留学生だよりになっている。方向も判らずに小1時間路地から路地へと彷徨し民家が途切れたその先には村人の拠り所の宗祠が現れる。その高台から村全体を見渡すと古色蒼然とした屋根瓦が折り重なり、雨の日の情景に花を添えている。再び路地を下り村の中心の鏡池に戻った頃には雨も上がり、おしゃべり好きの多くの村人達が口角泡を飛ばす勢いでおしゃべりに興じていた。

ここで前記した村の民宿について書くことにする。
以前やはり学生達と、グルジア、スーダン、エジブト等で民泊を体験したが、正に民泊だったとしか表現出来ない辛い思いをした。特にトイレに関してはコラムに書くのさえ憚れるすごさだった。
ここで最初に書いたトイレットペーパーの話しに戻るが、中国でも2カ所の民泊が旅程に組み込まれ、事前説明会でも学生達には必需品の項目にこれを入れていた。私も勿論お気に入りのいつものを持参したが、驚くこと無かれ状態に陥った。何と中国国産の紙の肌触り?これもコラムでは表現出来ないほどの素晴らしさだった。辺地のこの村でさえ最高の肌触り?の提供を受け、一気に中国の認証度が急上昇した。
民宿自体も四百年前の屋敷をリノベーションし、我が国で言えば髙山、倉敷、金沢辺りの民家に滞在しているのと何ら遜色ない素晴らしい空間だった。
この後も何カ所かの民宿に滞在し,見学もしたが、町の味気ないホテルに泊まるよりよっぽど快適なような気がした。中庭にはレストランを配し、離れはバー、部屋の寝室はロフトの様な作りの部屋もあった。トイレをはじめとした水まわりも素晴らしく、海外ではあまりバスタブを好まない私ですらお湯に浸かりながらの読書を楽しんだ。

中国には国立の三大美術大学があり同行の留学生達もそこの卒業生であるが、聞けば中国では建設、リノベーションブームで、入学時の競争倍率が100倍を超えるらしい。その話を聞くと辺境の諸葛村にもこれだけの完成度の高いリノベーション施設が存在するのもうなずける。
今回の旅は浙江省奥地の村々を訪ねる旅だったが、リノベーション、トイレットペーパーによって良い意味での「中国恐るべし」を確認する旅になった。

さあ来週からハワイに行くが、いつもの紙はどうしようか?悩ましいところだ。

(posted on 2019/5/7)

堀内広治

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