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日本建築写真家協会

Japan Architectural Photographers Society

コラム

Column

街歩き (19) ボーヌ(フランス) 

今回もフランスの小都市について書いている。最近のコラムではフランスの街歩きが続き些か気が引けないでも無いが、次回に期待しつつ書き始める事にする。

パリから一日に数本止まるTGVで2時間半、この街が属するブルゴーニュ地方の州都はエスカルゴとマスタードで有名なヂィジョン。そこからローカル線に乗り換え約半時間、今回の街歩きで紹介する人口2万人強の街ボーヌは延々と続くブドウ畑に囲まれた典型的なフランスの田舎町だ。
フランスの地方都市でよく見かける城壁に囲まれた中に街の中核を有し、その中心部にこの街が世界に誇るオテル・デューのあでやかな屋根が旅人を迎い入れてくれる。
オテル・デュー、正しく「神の宿」と呼ばれるこの館は、1443年ブルゴーニュ公国の宰相ニコラ・ロランとその妻によって貧しい人々の為の病院として建てられ、今も15世紀創建当時の病室がそのままの形態で残され世界遺産にも指定されている建築史上有名な建築だ。併設されている教会や当時のままの病室、厨房、調剤室は先の大戦時にも使われていた。
この公設病院の運営資金はこの地方の有力者より寄進されたブドウ園とそこで収穫されたワインでの売り上げを資金とし、唯一の入所条件は「貧者たる者」という単純、明快さだったらしい。
この館で現在も醸造されているワインはグラン・クリュとして人気が高く売り上げは館の修復などに使われている。
内部に入れひときわ目を引き見逃せないのは、サン・ルイの間に展示されている「最後の晩餐」を主題にした装飾屏風だろう。目映く光り輝くフランドル風の作品にどれほどの多くの患者達が勇気付けられた事だろう。

この街でもう一つ記さねばならないと言えば毎年11月の第3日曜日を挟んで開催されるワインオークションだろう。
栄光の3日間と呼ばれるその祭典は、世界中から多くのワイン愛好者が押し寄せ、此処でのワイン価格がその年のフランスワインの相場を左右するとまで言われているこの街最大のイベントだ。
フランスワインと言えば、ボルドーとブルゴーニュの2大産地が名をはせているが、とりわけコート・ニュイ(黄金の丘)と呼ばれるボーヌ近郊のブドウ畑は秋の収穫期に車で走っていると言葉では言い尽くせない素晴らしい風景を満喫出来る。丘陵全体が深紅、金色に包まれ、特に夕刻時の美しさには圧倒され、黄金の丘の名に恥じない光景に感動した記憶がよみがえる。
ブルゴーニュ産を名乗るのは、赤ではピノ・ノワールやガメ、白ではシャルドネやアルゴテの品種を使用するが、一時日本でも有名になったロマネ・コンティも一つ谷を隔てたコート・ド・ニュイ地区が生産地で、少し南に下れば白ワインで人気が高いマコンも同じソーヌ川に沿った生産地だ。

このソーヌ川沿いはロマネスク様式の教会、修道院が多く現存する地域としても知られ、筆者自身もこの地域一帯の取材には幾度となく訪れ、前記したような感動的な風景を車窓から味わい、昼になれば街道沿いや名も思い出せない村のレストランで安価な食事とワインを堪能した事を思い出す。

先に述べた有名ワインを手軽に楽しむには、ボーヌ市内のいたる所で目にする「カーヴ」と呼ばれる試飲所に行けば簡単に口にできるが、日頃昼間からの飲酒に慣れていない我々には些か酷な体験かも知れない。

このブルゴーニュ地方はパリからの交通の便も良く、現地での交通手段も比較的安易なためこの後多くの観光客の訪れが始まるだろう。今のうちに、今なら古きよき時代の典型的なフランスの田舎の風景、人情等を体感できる地域として推奨しても間違いないだろう。

(posted on 2019/3/10)

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