日本建築写真家協会

Japan Architectural Photographers Society

コラム
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NOSTALGIC JAPAN ⑩「常磐ハワイアンセンター付属 常磐音楽舞踊学院」 海老原一己

福島県いわき市湯本と石川郡石川町を結ぶ福島県道14号いわき石川線を「御斎所街道」という。

途中、御斎所峠付近は入り組んだ川沿いの狭い道で、昔からかなりの難所だったらしい。1995年に御斎所トンネルが開通してからは旧道の交通量は激減し短時間で御斎所峠を越えることが出来るようになった。

早朝、福島県白河市で撮影が終了して、夕方までにいわき市小名浜へ移動すればよい。のんびり御斎街道を走っていると自然豊かな古殿町へ入った。古殿町は古殿八幡神社の流鏑馬(やぶさめ)が有名だ。流鏑馬は役者が古式の盛装をし、馬を駆けさせ、馬上から大弓にて三ヶ所の的を射る日本の伝統的な儀式。〝馬を馳せながら矢を射る〟ことから「矢馳せ馬(やばせうま)」と呼ばれ、時代が下がるに連れて「やぶさめ」と変化したと言われている。スケジュールに余裕があるので、以前から気になっていた古殿八幡神社を見学する事にした。ちなみに、この流鏑馬は昭和46年に古殿町の重要無形民俗文化財に指定。平成7年には福島県の重要無形民俗文化財に指定された。古殿八幡神社の流鏑馬は、毎年10月第2土、日曜日の八幡神社例大祭に行われるらしい。ぜひ、来年は秋の祭礼時に流鏑馬を見に行きたい。

本来ならば古殿八幡神社を取材する予定だったのだが、途中で更に気になる建物を見つけてしまった。どこかで見たことがあるこの建物は、映画かドラマで使用されたモノなのか?裏へ回ってみると「常磐ハワイアンセンター付属 常磐音楽舞踊学院」の看板が無造作に立て掛けてあった。

そうだ。思い出した。「フラガール」だ!
https://youtu.be/BYBsyogWYlw

フラガールは2006年に公開された松雪泰子さん主演の映画。昭和40年代、福島県の炭鉱町に誕生した常磐ハワイアンセンター(現スパリゾートハワイアンズ)の誕生にまつわる実話を基に、フラダンスショーを成功させる為に奮闘する人々の姿を描いた映画。私は映画館で3回も観てしまった。リーダーを演じる蒼井優さん率いるフラガールズが大団円を迎えた瞬間には、何度観ても感涙でスクリーンが曇る。

「常磐ハワイアンセンター付属 常磐音楽舞踊学院」は東京からやってきたダンス講師のまどか(松雪泰子さん)が炭鉱で育った娘(蒼井優さん)たちにポリネシアンダンスを教える為に厳しい指導を行った稽古場。

ちなみに「常磐音楽舞踊学院」は実在していて、50年以上の歴史があり、卒業生はみなスパリゾートハワイアンズでフラガールになる。

早速、お隣にある古殿町公民館へ行き、館長へ撮影したいと申し出た。最初は、映画が公開された当初ならいざ知らず、今頃になって何故に?と怪訝な顔をされた。しかし、事情を説明すると、快く建物の見学&撮影許可を頂いた。

この建物は元々旧古殿中学校寄宿舎として使用されていたという。それ以前は宮本中学校の校舎だったのだが、昭和50年に竹貫中学校と統合された。後に遠距離から通う子供たちの便を図るため寄宿舎として再利用されるようになった。当時は県内最大の寄宿舎だったという。たまたま公民館に居合わせたお年寄りに聞いた話。

〝レッスン場〟に入ると、奥から柔らかい光が射し込んでいる。そこにはフラガールズがレッスンした風景があった。映画で使用されたセットが当時のまま残されていた。初めて訪れたのに懐かしい。映画の為に製作された空間なのだが、元からあったように錯覚してしまう。

二階へ上がると、寄宿舎として使用されていた頃の部屋が当時の姿を残している。こうなると、どこからが映画のセットなのか全くわからない。

食堂(レッスン場)の扉を開けると今でも「おかえりなさい」と子供たちの明るい声が聞こえてきそうだ。おしゃべりに夢中の後ろ姿も浮かんでくる。そんな「常磐ハワイアンセンター付属 常磐音楽舞踊学院」も近い将来取壊しの計画が上がっているそうだ。また一つ昭和の風景が無くなってしまうのは寂しい。

夕方、いわき市藤原町まで来ると、南の高台にスパリゾートハワイアンズが見えた。フラガールズが踊っている姿が目に浮かぶ。

(posted on 2018/11/12)

海老原一己

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