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日本建築写真家協会

Japan Architectural Photographers Society

コラム

Column

街歩き (15) アンドラ・ラ・ベリャ(アンドラ) 

今回の街歩きは欧州の狭小国の中でも最も馴染みの薄いフランスとスペインに挟まれたピレネー山中の小国、アンドラの首都アンドラ・ラ・ベリャについて書いている。

同じ狭小国のバチカン、モナコ、サンマリノ等は多くの観光客が押し寄せる欧州の中でも有名な観光地であるが、最初の訪問時のアンドラに限っては、現地の情報の入手が困難なため、同国の出先機関のあるバルセロナの事務所に問い合わせ諸々の情報の入手をした記憶がよみがえる。30年ほど前の話ではあるが当時はそんな状況だった。

この国への入国はフランス、スペインからの一本の国道での入国以外方法が無い。余談だが世界の国々の中で5カ国が空港施設をもって無いらしいがこの国も含まれている。
トゥルーズで車を借りアンドラを目指したが、フランスからのアプローチはかなりハードで正しく九十九折りの急峻な勾配を登り切ると眼下にこの町が現れる。
最初の訪問時には事前情報が無く苦労した話しは先に述べたが、現地に着くやいなや危惧していたことが瞬時に吹き飛んでしまった。無知だっただけでこの国は欧州では名の知れたタックスヘブンの国で週末やバカンス時期には欧州中の人達の買い物天国に早変わりする。当然その訪問者目当てのホテル、レストランがいたる所に見受けられる。事前情報では数件のホテルリストしか持ち合わせていなかったのだが。

この国について少々の説明が必要の様だ。正式国名はアンドラ公国。国土面積は金沢市とほぼ同等。国家元首はフランス大統領、スペインのウルジェイ大司教の二名による共同大公を国家元首としている。ユーロ統一前はフランス、スペインの通貨が流通し、価格もフラン、ペセタと両国の価格表示が記載され、街中を分断するバリウ川によってフランス語圏、スペイン語圏とに線引きされていた。一年の半分近くが雪の被われる為アルペンスキーが盛んで冬季オリンピックを見ていると偶に同国代表の選手が活躍するのを目にできる。
しかしこの街の喧騒、雑踏から少しでも外れると、万年雪に覆われたピレネー山脈の大自然を満喫できる雄大な風景が堪能できる。

先に述べたがタックスヘブンの国なので繁忙期には車は大渋滞、ホテルはどこも満室、閉口した事を思い出す。私の訪問の目的は買い物では無くこの地域一帯にしか見られない独特の形状をした円筒形、方形の鐘楼を付したロマネスク様式の教会堂の撮影だが、これだけの買い物客、免税店の数に圧倒され趣味の一つのマウンテンバイクを衝動で買ってしまったが、日本の半分以下の価格だった。

その後二度ほど訪れ家族同伴でも行ったこともあるが,日頃は買い物好きの同伴者でさえ、始めて見る免税店の規模、種類の豊富さに圧倒されたのか,目移りしたのかは定かではないが何一つ購入しなかった。そのおかげで以前購入した衝動買い自転車の話しを持ち出せず事務所の地下駐車場がホームとなっている。

最近十年ほどは行っていないが、バルセロナから一部高速道路が開通し、別荘の建設ラッシュが始まったらしい。谷を一つ南下したスペインカタロニア地方のアラン谷では最後に訪れた数年前には建設ラッシュが既に始まっていた。今やその波がアンドラまで押し寄せようとしている。先に述べたアラン谷、ポイ谷に代表されるカタロニア最深部のロマネスク美術の宝庫である村々の一部が別荘地化された今、アンドラの谷までもが建設の槌音に脅かされるとは三十年前には想像すら出来なかった。

(posted on 2018/11/19)

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