日本建築写真家協会

Japan Architectural Photographers Society

コラム
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街歩き (9) サンティリャーナ・デル・マル(スペイン) 堀内広治

昨年の秋、スペインに旅をした。二週間ほどかけて北部地域に点在するいくつかのパラドールを撮影し、最後の撮影地としてこの町に入った。人口は4千人ほどの小さな町だが全体がナショナルモニュメントに指定され昼間の人口は5倍程になる時期もある有名な観光地だ。私も過去に三度ほど訪問したが年々観光客の増加を感じないではいられない。町の中心はマイヨール広場。この広場に面して建っているパラドールは18世紀に建てられた名士の別邸で1946年からパラドールとして解放されている。

パラドールとはスペイン政府が運営する国営ホテルで、そう聞くと我が国の国民宿舎を想像しがちだが、いかんせん此方のパラドールには足元にも及ばない。わかりやすく言えば国の史跡に指定された宮殿、城、修道院等を宿泊施設として改装し解放されている。私も以前に滞在したアルハンブラ宮殿の中にあるパラドールでは宿泊者だけに観光客がいなくなった夜、宮殿の中を自由に散策できる特権までついている。スペイン各地にはこのような個性豊かなパラドールが96カ所あり、その中にはカナリア諸島やスペインの飛び地の北アフリカにも存在し世界各地からの宿泊客を受け入れている。今回の取材でわかった事はまだまだ日本人には馴染みが薄いようで認知されるのを期待している様子がうかがえた。

さて町に話を戻すと、中心のマイヨール広場からベネディクト会の修道院だった参事会教会に向かう。12世紀に建てられたロマネスク様式の教会は見事な彫刻が施された教会正面、42本の見事な彫刻で飾られた柱頭をもつ回廊等どれもがロマネスク期の一級品だ。この町の象徴でもある教会をあとに町中のそぞろ歩きを楽しみ、夕刻近くになるとやっとこの町の真の良さが顔をのぞかせる。昼間の喧噪が嘘のような静けさが町全体を覆い、寂寥感を感じないではいられない。夕食後のホロ酔い気分で町に出ると空には冷たく光る上弦の月、石畳に響く足音、パラドールから続く教会への急坂の一本道、誰一人歩いていない。この町の滞在者だけに許される至福の時間かも知れない。

今回は気心の知れた編集者との同行取材だったが、取材も終盤に近くなったせいか、パラドールで食した素晴らしい料理のせいかはわからないが、夜な夜なそれぞれの職域の話題で多いに盛り上がった。

この町の郊外1.6kmのところには旧石器時代のアルタミラ洞窟、西に20km程行ったコミーリャスの伯爵邸の庭にはガウディが設計したエル・カプチョが建っている。カタロニア地方以外でのガウディ作品はめずらしいが、一目見てガウディワールド全開の作品だ。海を見渡せる高台にあるため夏にはレストランとして使われている。当然ながら撮影を早くに切り上げエル・カプチョまで車を走らせたのも事実である。

スペインと言えばカタロニア、アンダルシア地方が有名だが、この町のあるカンタンブリア地方を始めアストリア、ガリシア、バスク地方と個性豊かな北部スペインにも足を向ければ違ったスペインを感じられるはずだ。

明日は最後の訪問地、バスク地方のビルバオだ。美術館に行こうか、アスレティック・ビルバオの試合を見るか悩ましいところだ。

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(posted on 2018/6/18)

堀内広治

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