日本建築写真家協会

Japan Architectural Photographers Society

コラム
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街歩き (8) クラクフ(ポーランド) 堀内広治

今回の旅はポーランドの古都クラクフ。ルーマニア北部地方での撮影を終え、ブカレスト、アムステルダム、ワルシャワと航空機を乗り継ぎ、最後はポーランド国鉄のICでの訪問となった。クラクフといっても日本では馴染みの薄い都市ではあるが、人類史上最悪の蛮行の一つであるホロコーストが行われたアウシュヴィッツはこの町の近郊に位置する。人口は約70万人。クラクフがポーランド王国の首都として栄えた16世紀までが町の全盛期でウィーンと並んで中央ヨーロッパの文化の一大拠点であった。今はこの国最古の大学を有する文教都市でもある。

今回この町を訪問した最大の目的は、レオナルド・ダ・ヴィンチの油彩画との対面である。諸説はあるが生涯13作品しか残さなかったダヴィンチ作品、しかも3枚しか現存しない油彩のポートレート作品の一つをこの町の美術館で鑑賞することが出来る。私自身も最後の残っていた13番目の作品鑑賞である。

チャルトルスキと呼ばれるその美術館は旧市街フロリアンスカ門を入ってすぐのところにひっそりと建っていた。過去に訪れたダヴィンチ作品を所蔵している美術館といえば、ルーブルを筆頭に世界的に名を馳せた美術館ばかりで,最初この美術館の前に佇んだ時には「はたして本当に此処にあるの」なんて思うほどの質素な建築であった。小ぶりなゲートを抜け高揚した気分を抑えつつ目的の展示室に入ると,長年対面が果たせなかったその小作品が正面の壁面に飾られていた。作品の名は「白貂を抱く貴婦人」若い貴婦人の人を射貫くような目が見つめていた。

学生時代にダヴィンチの作品集を見て、ポーランドにその作品が所蔵されているのでは行く事も叶わないだろうと感じたその作品が目の前に掲げられている。感動以外の何ものでもない。約半世紀を経ての正夢になった。
さすがにダヴィンチの作品だけに特別室と名付けられた小室に展示はされてはいるが、ダヴィンチで御座る感は一切無く、気をつけていないと思わず通り越しそうになってしまう。

一時間ほど作品の前で過ごし、次回はいつ再訪が叶うのかなんて感傷的な気持ちになり外出し、次の目的である旧ゲットーを訪れた。町の一角を成すカジミエーシュ地区に最大級のゲットーがあった。映画「シンドラーのリスト」の舞台でもある。この地区からは約9割の人達が虐殺や移送で居なくなり、最終的には人口が10分の1にまで減ってしまった。このエリアは当時ナチスの司令部が置かれていたせいで空爆からは逃れ、殆どの街区が当時の様子をとどめている。実際にも多くのナチス関係の映画のロケ地として撮影に使われているようで、人気の少ない小路を歩いていると今でもナチスの軍用トラックが街区の角を曲がって来るように感じられ複雑な気持ちにさせられた。

先に述べたように文教都市でもあるこの町は多くの学生達の姿が見受けられる。今世紀に生まれた若い学生達も多いだろう。彼らの先代達の多くはこの町での蛮行を目にした世代である。学生達は多くを語らないが一人一人がそれぞれの思いを感じながら生きているような気がしている。
平和ボケした何処か国にも少しでも思いを共有出来る若者が多く居る事を切望したい。

この後、ワルシャワ経由でベルリンに向かい東西冷戦時の分断壁跡に佇んだが、今回の旅はきな臭くなってきた我が国が向かおうとしている現状を憂うる旅になったようだ。

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(posted on 2018/5/7)

堀内広治

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