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日本建築写真家協会

Japan Architectural Photographers Society

コラム

Column

街歩き (6) フエ(ベトナム) 

今回の取材は、ベトナム中部の古都フエに一週間滞在し未だ復興途中のベトナム最後の王都フエの遺跡群の撮影である。ベトナム戦争当時、この国の中部に位置するフエはアメリカ軍の補給基地のダナン、北ベトナム軍の最前線基地のちょうど中間に位置するが故に最大の激戦地の一つになっている。特に1968年の所謂テト攻勢時でのフエ王宮での激戦では多くの歴史的建造物が灰燼に期してしまった。
その後、1980年代から文化遺跡の保護、遺跡の修復が始まり、多くの人達の努力の結晶として1993年にはこの国初の世界文化遺産に指定された。現地の保存センターの所長の話だと未だ復旧は3割にも満たなくこの先最低でも半世紀を費やす国家事業になるらしい。早稲田大学の助力も大きな推進力となっている。

現在のフエの町は大河フォンが左岸と右岸が形成し、旧王宮がある左岸を旧市街、ホテル、オフィス、庁舎等がある右岸を新市街と呼んでいる。
新市街を歩いていると、東南アジアの諸都市で体感する発展途上のエネルギッシュな雑踏感を此処でも体感できるが、いざ旧市街に一歩踏み込むと古き良き時代のフエの町にタイムスリップした様な悠久とした時間の流れの中での日常生活が垣間見られる。まるで大河フォンの流れのような。

現地の人に交じり朝食を旧市街の食堂で食する機会を何度か持ったが、多くの人から勧められた揚げパン入りのお粥には間違いなく星三つを進呈したい。
遺跡群が点在する左岸の京城、皇城と呼ばれる2.2Km四方の城郭は中国の都を模した建築と、フランス様式の城壁とで形成され、多様な文化を継承しながらの当地特有の屋根架構の宮殿や優雅な庭園、離宮等が城壁内に点在する。
訪れる季節にもよるが私が訪れた5月には日中の気温が連日35度にも達し、湿気にも閉口しかなりきつい取材を強いられた。しかし何度かベトナムは訪れているがこの気温、この湿度でないと何か拍子抜けしてしまう自身がいるのも確かで、その気候の中で食する朝粥でないと星三つの味にはなら無いのかも知れない。

最近は日本からの観光客も飛躍的に伸びっているベトナムだが、現地の人曰くフエに来る観光客はまだまだ少ないらしい。私自身も今回フエには初めて行ったが、ホーチミン、ハノイ、その他のどの観光地よりも再訪したい街になってしまった。仏領インドシナと呼ばれていた時代のコロニアルスタイルのホテルも今なお健在だし、当時からのレストランも町の中には何件か残っている。夜熱気が収まりそよ風が吹くころにレストランやホテルのテラスで地元のビールと少々甘味の強いフエの料理を食していると、正しく我が世の春?いや夏を満喫している気分になってくる。

日本からほんの数時間で行けるフエには他の東南アジア諸国では味わえない仏領インドシナと呼ばれていた当時の様子が色濃く残っている珠玉の街と言えるだろう。

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(posted on 2018/3/7)

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