日本建築写真家協会

Japan Architectural Photographers Society

コラム
column

街歩き ⑵  シカゴ(アメリカ) 堀内広治       

愛読書の一つにM・コナリー作のボッシュシリーズがある。日本に紹介されかれこれ20数年は経っているだろう。
主人公のボッシュはロス市警の敏腕刑事ではあるが、いささか心の問題を抱えた問題児で、娼婦の母親を持ち、孤児院育ちのヴェトナム帰還兵でもある。当然ながらアウトローのアンチヒーローで、同僚、上司との軋轢も絶え間ないが、そんな彼の至福の時間と言えば自宅で耳を傾けるジャズセッションだろう。そのリビングルームに掛かっている唯一の絵画が今回紹介する「ナイトホークス」である。

シカゴと言えば建築好きにとっては、ミース、ライトに代表される近代建築の巨匠達の建築作品行脚が一番の目的だろうが、私は先に述べた「ナイトホークス」のオリジナルが展示されているシカゴ美術館262号室に躊躇なく向かう。E・ホッパー作の油彩である。これほどにも都会の孤独を見事に切り取り、日常生活の一瞬を描ききった作品は他に類を見ない。1942年作のニューヨークの下町の何気ないブラッセリーが描かれている。画面の中央に背を向けて座る男。誰一人とも視線を交わすこと無く思いにふけっている。ボッシュだ。ボッシュ自身だ。深夜大都会の場末の小食堂に集う意味ありげな男女。すさまじいほどのアンニュイだ。油彩なのにフィルムノアールのカット割りの様で、ルイ・マルの[死刑台のエレヴェーター]やV・デシーカの作品を思い出す。  

彼が何故この作品に惹かれ、心の安らぎを求めたのかは未だに理解しがたいが、作者であるM・コナリーの心情なのかもしれない。
シカゴでは巨匠達の建築行脚は勿論、私自身が世界で一番美しいと感じるシアーズタワーから眺める漆黒のミシガン湖に切り取られた市街地の煌びやかな夜景、映画「スパイダーマン」で登場する地上をゴトゴトと音をたてながら走る古風な地下鉄、天候に恵まれれば日長過ごすにはもってこいのループエリア、ローリーズで名物料理のローストビーフを食するのも良いだろう。何度行っても時の経つのも忘れるほどの素晴らしい街だが、やはりこの街の出発点はシカゴ美術館の262号室からだろう。   

1

2

3

(posted on 2017/11/15)

堀内広治

Writer:

back to top of this page
TOP